咆哮音痴  ゴジラ



ゴジラ専用ストローの写真
 もしもストロー楽器の人気投票をしてみたら、どんな結果が出るだろう。数ある名作、傑作、怪作たちの中で堂々の第一位に輝くのはどの楽器だろうか。
 きびしい戦いになりそうだが、「ゴジラ」は間違いなく優勝候補のひとつになるだろう。
 この楽器はいつも人に強烈な印象を与えてきた。
 いや、これはもはや楽器とは言えないか。
 いちおう音は出る。しかし「火を吐きながら吼(ほ)える」、それだけしかできないのである。

 発端はフィジーのストローであった。
 といっても、自分で買ってきたわけではない。フィジー島に旅行した知人がおみやげにくれたのである。
 私にストローをプレゼントする人、時折そういう奇特な方がおられる。池の鯉や公園の鳩にエサをやるように、給餌本能を刺激されるのか。あるいはお布施、お賽銭、喜捨といったお気持ちなのか。
 いずれにせよありがたいことである。

フィジーのストロー  このフィジーのストローは少し細身で、直径5mm足らず、赤茶けた、さびたような色合いだ。白いストライプがついてはいるが、「とりあえず線を引いといたからね」というテキトーな感じが漂っている。材質はポリプロピレンと記されているが、なんだかぺらぺらしていて縦に裂けそうな感じだ。ちょっと天然の麦わらのようなおもむきである。
 これではまともな笛になりそうもない。だが、せっかくの珍しいストローだ。何とか活用できないだろうか。
 取りあえず先をつぶして音が出るようにしてみた。だが、材料にコシがないからやはり薄っぺらい音しか出せない。しかたないから五、六本を「笛」にしていっぺんに吹いて見た。これはなかなか強烈で、「ぎゃ―っ!」という感じの音がした。だが、これではまるでゴジラの雄叫びではないか。
 そう感じたのが「ゴジラ」誕生のきっかけになった。
 ただ、この段階ではまだ人の前で披露することはなく、さらに考え続けた。

 フィジー製はやはり頼りない。ふつうのストロー(直径6mm)を使うことにする。10cmくらいの三本のストロー笛をいっぺんに吹く。三つの高い音が同時に響き、音の高さもそれぞれ微妙に違うから、かなりけたたましいサウンドになった。
 音だけでは物足りないと思って、「ゴジラの口」を作って見た。赤いストローで「コ」の字型を二つ、これがつまり上顎と下顎である。細いストローを使って開閉できるように組み合わせる。
 怪獣の口だから鋭い歯をつける。白いストローを短く切って、先を斜めに切って尖らせた「歯」をたくさん作り、赤い「歯茎」にずらりと植え込む。なかなか凄みのある口になった。
 さらに、「笛」の先端の内側には5cmほどのキラキラテープを取り付けた。吹いて吠えれば輝くビームを噴き出す。そして吸えばこのビームは吸い込まれて一瞬にして消え去る。
 こうして「初代ゴジラ」が誕生した。
 コンサートで披露するときには、まず低音のストロー笛でゴジラのテーマを少し演奏して雰囲気を高め、やおら「ゴジラの口」に持ち替えて雄叫びを三回、という段取りになった。この「ゴジラ」は当初からかなり好評で、すぐに主役級の位置を占めることになった。

 だがある日、コンサートが終わって楽器を片付けていると「ゴジラ」が見当たらない。
 コンサート後に大勢が集まって楽器を見物していたから、誰かが黙って持って行ったのかも知れぬ。いや真相はわからない。
 いずれにせよこの紛失事件はショックだった。苦楽をともにしていた楽器が急になくなると、言いようのない「喪失感」に襲われるものだと痛感した。
 もちろん、自分で作ったものだから作り直すことはできる。しかし、まったく同じものをもう一度作るのは何だか悔しい。どうせ手間をかけるならさらに発展させたい。「転んでもただでは起きなかった」ということになれば気が済むだろう。

 こう考えて、今回は「吹くと口が開き、吸えば閉まる」という仕掛けを追究することにした。実現したら「初代ゴジラ」よりもっと面白いネタになりそうだ。
 しかし口を開閉させるにはどうするか。
 とりあえずピストンとシリンダーを作ることにした。「上あご」に縦方向のシリンダーを取り付け、「下あご」には「ピストン」をつけて、シリンダーの中に挿入する。息を吹き込めばピストンは押し出され、吸い込めばピストンは元の場所に戻る。
 しかし難問が山積していた。
まず、シリンダーを縦に付けるためには「上あご」に厚みがなければならない。つまり立体を構築する必要がある。これにはかなり苦労したが、ストローで何とか「籠」のような構造を作って「上あご」が完成した。
ゴジラ双生児写真  ところでこのピストンはちょうつがいを中心にして弧を描く。
 シリンダーは直線だがピストンは曲線を描く。
 だからピストンをカーブさせ、シリンダーもそれに合わせてカーブしているのが理想だが、ストローをきれいに曲げる方法を思いつかない。
 どうする…。
 曲線の動きと直線の動きが共存する矛盾をどうする。
 口の開閉だから角度にしてせいぜい30度くらいか。あまり大きな動きじゃないな。
 ならば、ちょっとだけ無理を通してごまかそう。
 そういう方針を採用したのである。
 材料のストローは「おどろおどろしさ」が出るようにアメリカ製のけばけばしい色目のものを使った。
 吼えながら噴き出す「火」については、もっと長くした方が「説得力」があると考えた。
 それには長いストローが必要になる。狭い「口腔内」にそれを格納するために、曲がるストローを使って腸のようにくねらせることにした。

      こうして「二代目ゴジラ」は、初代よりもはるかにインパクトを増して復活したのであった。そしてその後、色あいを変えるなど多少の変化はあったが、今でも各地で元気に吠えている。
 とはいえ、実は改良したい点がまだある。
 いっぺんに3本のストローを力強く鳴らして「火」を噴き、さらにもう1本のストローにも強い息を送り込んで口を開ける。そのためには全力で吹かねばならない。そして、「火」を吸い戻し再び口を閉じるためにも思い切り吸う必要がある。
 これはかなり疲れる作業だ。
ゴジラ双生児写真  ゴジラが吠えるために全力で吹き全力で吸う。人としてもどうかと思う。
 できれば、もっと楽に吠えてみたいものである。


2022.11.17 

  
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