蜂音无蜂音无蜂音无   ぶんぶんぶん  ぶんぶんぶん



ぶんぶんぶん専用ストローの演奏写真
 メロディとともに「蜂」が頭の上を旋回する、なかなか楽しい物件である。
 誕生したのは1986年頃、はじめての「動く楽器」だ。
 もっとも、これがひとつの楽器だと言えるのか、疑問視する専門家もいる。二種類の笛を同時に吹くだけなのだから。
 右手にメロディ用の笛を持つ。この曲はドレミファソの五音だから指穴は四つ、つまり片手で演奏できる。左手は「蜂」用の笛だ。これは低い音を出しながら大きく回る。
 この二つを一緒に吹くわけだ。(1)
 初期の段階では二つの笛がばらばらにしていたが、その後、両者をくっつけたから、「ひとつの楽器」という体裁をなんとか保っている。

 現在、私が携わっている「ストロー界」では、曲目が決まっている楽器がほとんどである。ところが当時は「一曲だけのための楽器」はまだ存在しなかった。というより、そんなことは思いつかなかったのだ。だが、その何年か後には、多くの「専用楽器」が続々と誕生し、華やかに活躍することになる。
 思えば、この「ぶんぶんぶん」は、時代を先取りした楽器であった。

楽器の写真

【レプリカとともに】

どっちが本物だ。

蜂の写真

【先端の「蜂」部分】

 黄色いストローを縦に4つに切り、斜めに折り曲げてある。これを細いストローに取り付けると風車(かざぐるま)になり、風が当たると細かく回転する。
 最近、風車の根元を黄色と黒のらせん模様にしたので、回る様子がさらに味わい深くなった。
L字回転の図

【L字型回転ストロー】

 初期の段階では脱落防止機構がまだ開発されていなかったから、回転部がはずれないように軸を真上に向けていた。つまり重力に頼って脱落を防いでいたわけである。

 そもそも、この「楽器」が生まれたのは、その頃「回るストロー」を思いついたことがきっかけであった。
 太さが違う曲がるストローをしかるべく組み合わせて吹くと回転する(図)。さらに、吹き口を「笛」にして吹けば、鳴り響きながら回り、回転にしたがって音が揺れる。つまり「ヴィブラート」がかかる。これを発見したときは心底嬉しかったのを今でもよく覚えている。

 左手で持ったこの回るストローは、吹き口からすぐに上に曲がり、その先には太いストローが重なっている。太いストローは直角に曲がって水平方向に張り出している。投げ縄みたいに、頭の上で大きな円が描ける構造である。
 先のところに穴を開け、息がこの円の接線方向に吹き出すようにすれば、その力でゆっくり回る。だが、これだけでは面白くないので、先端にストローで作った風車(かざぐるま)を取りつけた。この風車もその時期に開発したものだ。全体が大きく回ると、これが風を受けて細かく回転し、なんとなく蜂が飛んでいるように見えるのである。(2) しかも、見た目だけではない。蜂が飛んでいるような「ぶーん」という羽音も鳴り続けるのが嬉しい。

 ところで、最初のうちは、この演奏スタイルが一般受けするものだとは思っていなかった。
 演奏している時のゆかいな姿が自分からは見えないのも理由のひとつではあるが、それだけではない。
 全体が大きく回ることも、先端の風車がすばやく回ることも、それまで散々遊んでいたから「あたりまえ」の現象になっていた。だいいち、みんな理屈どおりに動いているだけなのだから、取り立てて面白いことではないな。
 そんな風に思っていたのである。
 だが、時折これを人に見せると、そのたびに驚くほど受ける。大笑いされることもしばしばであった。
 ひょっとすると、これは素晴らしいパーフォーマンスなのかも知れない。
 そう感じ始めて、人目にさらす回数が増えていった。少しずつ、恐る恐る、図に乗って行くのであった。

 とはいえ、本人にとっては相変わらずあたりまえの現象だから、淡々と演奏する。それがかえって面白いんだと、人はおおいに喜んでくれたのであった。

 1994年頃までは、この「ぶんぶんぶん」がトップスターであった。その後、次第に脇役のような立場になってゆき、最近では前半に登場することが多い。だが、会場を笑いの渦に巻き込む実力は今でも健在で、まことに頼もしい存在である。


(1) 「一緒に吹く」と簡単に言ったが、働きがまったく違う2本の笛を同時に鳴るように調整するのが実はかなり難しい。
(2) この楽器が登場したときは、風車をできるだけ目立たせるために、ドイツ製のショッキングピンクのストローを使っていた。蜂とはほど遠い色合いだが、当時、まだ黄色いストローがなかったのだからしようがない。


2015. 7.27 

  
inserted by FC2 system